前作『ハッピーエンド』では"エンドロール"をプロデュース、今作『Stayin'Alive』では"short hopes"を共作。と、ここ2作続いてフラカンに携わっている、プロデューサーにしてアレンジャーにしてエンジニアにして、作詞家にして作曲家にしてフラカンの8歳下にしてスキマスイッチの鍵盤である常田真太郎に、彼を起用した鈴木圭介と対談していただきました。
「起用した」とか書くとなんか圭介が偉そうですが、以下を読むと、当初は本当に偉そうだったらしいことがうかがえます。そしておそらくフラカンファンであればあるほど、頭蓋骨が地面にめりこむほど、常田真太郎に頭を下げたくなるテキストになっております。ただ、「でもあなたも、なんでそこまでしてフラカンを?」と不思議に思うテキストにもなっております。ではどうぞ、ご熟読ください。

1. 常田、フラカンに急接近

──  まず、最初の出会いから振り返っていただけますか。
鈴木圭介: 10年前ぐらい? あの時、もうデビューしてた?
常田真太郎: した直後ぐらいですね、はい。
鈴木圭介: 新宿ロフトでイベントがあって。出てたのがヘルマン(H.&ザ・ペースメーカーズ)と、THE BACK HORNと、俺らと、あとサンプリングサン──。
──  常田さんと同じマネージメントでしたよね。
常田真太郎: そう、そこつながりです。
鈴木圭介: で、俺は出番終わって、客席でほかのバンドを観てたら、声をかけてくれてね。
常田真太郎: サンプリングサンの奴らに「どこにいるの?」「ライヴ観てるよ」ってきいて、圭介さんを探して。ナンパです(笑)。
鈴木圭介: いきなり「僕、神沢中学なんです」って言われて。隣の中学だから、「えっ、神沢なの?」「これこれこういうバンドをやってまして」「あ、そうなんだ? 今度一緒に飲みに行こうよ」って俺が言って。ふたりともお酒飲まないのに(笑)。で、連絡先を交換したんだよね。
常田真太郎: はい。だから、そういう社交的な方なんだと思ってました。全然そうじゃないってことが、あとでわかるんですけど(笑)。僕は地元にいる時から、もちろんフラカンを知っていて。スペースシャワーで番組やってたり、よくテレビに出てたり……フラカンがイケイケの頃ですよね。で、名古屋っていうのも知ってたんですよ。高校の時に組んでたバンドのドラムの奴が、すごいフラカン好きで、アナログとかも持ってたんですよ。
鈴木圭介: 『怒りのボンゴ』?
常田真太郎: そうそう。「なんだこのサイケなジャケットは!?」って、聴いて「かっこいいな!」って。そのドラムの中学の先輩だってきかされて。
鈴木圭介: 天白中学ね。
常田真太郎: 「そうなんだ?」って、すごい親近感がわいて。で、いつかどっかで会えたらいいなとずっと思ってて……僕も東京に出てきてかなり経ってからですけど、そのサンプリングサンと出るイベントがあったから、これを逃す手はないと思って、ロフトに行ったんですよ。その時フラカンのライヴ、初めて観たんですけど、もうとんでもないライヴで。「すごい! しゃべりたい!」っていう衝動にかられて。
鈴木圭介: で、俺も「神沢中学です」って言われたから「ほんとに!?」ってなって。その3日後ぐらいだよね? 飲みに行ったの。居酒屋行ったけど、ふたりとも酒を飲まずに。
常田真太郎: オールウーロン茶で。
──  でも普段だったら鈴木さん、地元が近いぐらいじゃ、誰かとサシで飲みに行ったりしないじゃないですか。だから、その時は……。
鈴木圭介: 弱ってたんじゃない?
常田真太郎: (笑)弱ってましたね。びっくりしたんですよ、だから。会ったのまだ2回目で、しかも大先輩ですごい憧れてる方が、いきなり自分の身の上の話を全部するんですよ(笑)。
鈴木圭介: ボロッボロだった頃だからねえ。人と会いたくてしょうがなかったの。そこにうまい具合に入ってきたの、この神沢中学が(笑)。「同じ名古屋だったら信用できる、こいつには腹を割って全部話そう」って。長いこといたよねえ、その店に。
常田真太郎: そうそう。「いちばんあかんかった頃だった」ってあとで言ってましたよね、圭介さん。

2.「着信無視事件」で常田、圭介の本性を思い知る

 
──  バンドの状況とか?
鈴木圭介: いや、バンドの状況はそんなダメじゃなかったけど、プライベートなこととかがあんまり……(笑)。でも話をきいてもらっただけじゃなくて、俺もきいたよね? あの時はシンタもけっこう悩みを抱えてて。
常田真太郎: そうです。たぶんデビューした年だったんですけど、 "奏(かなで)"が出る前で、このままだと契約がヤバいみたいな……最初のシングルが、全国40近いパワープッシュをとって、ドーンとデビューしたにもかかわらず、オリコンの左ページに入らなかったっていう。で、次のミニ・アルバムも全然ダメで、事務所もレコード会社も「これはまずいな……」っていう状況だったと思いますね。でもそこで、お互い腹を割ってそういう話ができたから……てっきりそういう方だと思ったんですね。気さくな感じで、よく後輩を連れて飲みに行くような。で、「あ、違う」ってわかったのが、それ以降まったく連絡くれないんですよ(笑)。まったく!
鈴木圭介: はははは。そのあと何年空いたっけ? かなり空いたよね。何年か後に、1回電話くれたことあったんだよね。
常田真太郎: そう、ロフトで、(グレート)マエカワさんと竹安さんがうつみようこさんのYOCOLOCO BANDで出て、フラカンも出るっていうイベントがあったんですよ。その時に、観に行きたいなと思ったんだけどチケットがない、これは圭介さんに連絡するチャンスだ、最近しゃべってないし、これをネタにまた会えないかなと思って電話したら、出なくて。コールバックもなくて。
鈴木圭介: はははは。
常田真太郎: 確かショートメールも送ったんですけど、その返事もなくて。
鈴木圭介: あったっけ? ……電波が悪かったんじゃないかなあ。
常田真太郎: はははは!
鈴木圭介: ……いや、電話があったのは覚えてんだよ。「かけ直そうかなあ……」と思ったんだけど……なんか気後れしちゃってさあ。
常田真太郎: 何言ってるんですか!
──  要は、その時はもうスキマスイッチが大ブレイクしたあとだからでしょ。
鈴木圭介: そうそう。だから、一緒に飲んでからしばらく経った頃、テレビ観てたら「あれっ!? あの時の常田が!」ってびっくりして。飲んだ時は、「売れそうにない」っていう話ばっかりだったから、あんなにドカーンっていくとは思ってなかったんだよね。そしたら、あれよあれよとねえ。「ああ、いっちゃったかあ」って。だから、電話もらったけど、折り返すタイミングがねえ……。
常田真太郎: どんだけ先輩だと思ってるんですか!ほんとに。
鈴木圭介: ……いや、売れてる売れてないにかかわらず、意外に俺、そういうことしないかもしれない。
常田真太郎: コールバックできないんですか?
鈴木圭介: できない。人としてちゃんとしてない(笑)。いや、今はそんなことないんだよ? でも昔は……話それちゃうけど、昔、ユースケ・サンタマリアとよく遊んでた時期があってさ。ふたりで『エヴァンゲリオン』を観に行ったりして、ユースケも酒飲めないからふたりで喫茶店に入って、ケーキ3つぐらい頼んで。
常田真太郎: はははは。
鈴木圭介: それ、3,4回やったの。でも、ふたりとも電話したがらないし、電話があっても出ないし。だから、お互いの連絡を取り合う方法は、留守電。電話が鳴ってもとらないで、留守電になるまで待つの。
常田真太郎: ええーっ!? すげえ。コミュニケーション障害ですね。
鈴木圭介: そう。電話出るの億劫でさ。相手が誰だから、じゃなくて。あるよね?
常田真太郎: ないですよ!
──  ないですよ。相手を見て「あ、めんどくさいな」とかはあるけど。
鈴木圭介: いや、相手が誰でも。留守電まで待つっていう。ものすごい緊急事態だったら留守電に入れるでしょ。入ってなかったら、さほど急ぎの用事じゃない、じゃあいっか、っていう。いや、今はちゃんとしてますよ?
──  ただ、その時はシカトしたと。
鈴木圭介: シカトっつうかなあ……シカトなのかなあ……シカトだけどさあ(笑)。いや、これがさあ、逆の立場で、俺らがブレイクしててスキマが伸び悩んでたとしたら、電話を返さなかったらすげえイヤな奴じゃん。「変わっちゃったなあ、先輩」って。でも逆じゃん。だったらいいかな、っていう(笑)。
常田真太郎: はははは! よくないっすよ! 寂しい寂しい!
鈴木圭介: って思ったのもちょっとあった。「だって売れてんじゃん、あっち」って。ひがみじゃなくてね? 忙しいだろうなあっていうのもあったしさ、これだけ空いちゃって恥ずかしい、っていうのもあったし。もっと普段、現場とかで顔を合わせることとかがあればねえ?

3.常田、COUNTDOWN JAPANでフラカン待ち、数年ぶりの再会

常田真太郎: ないんですよね、普段活動してる畑が違うから。だから、年末の幕張、COUNTDOWN JAPANの楽屋エリアで、何年かぶりでお会いしたんですよ。
鈴木圭介: そうそう。すげえ久しぶりに会ってね。
常田真太郎: 僕は待っていたので。張ってたんです、「ここしかない!」と思って。あの時フラカン、急に……1週間前とかに決まったんですよね。それをフェスのサイトを見て、「おっ、同じ日だ! フラワーカンパニーズとしゃべるにはここしかない」って。で、僕らが昼過ぎぐらいの出番で、フラカンは遅くて……。
鈴木圭介: 普通だったら帰るよね。俺ら、20時くらいだったから。
常田真太郎: ディスクガレージの人にきいたら、フラカンさんの入りは18時過ぎだと。で、うちのメンバーもスタッフもみんな帰って、ひとりで待ってたんです。で、物音がしたら「来たかな?」って見に行ったりして。入り待ちです。
──  はははは。なんですか鈴木さん、その大物感。
鈴木圭介: すみません。っていうかさあ、言ってよお!
常田真太郎: いや、電話したら出ないだろう、だったら会うしかないなと思って。片思い的な感じですよ、だから(笑)。で、会って、そしたら覚えていていただいて、「やった!」と思って。
鈴木圭介: いやいや、片時も忘れたことはないよ!
常田真太郎: はははは! よくいけしゃあしゃあと言いますね(笑)。で、会った瞬間に「電話くれてたよね!」って言われて。
鈴木圭介: そう、申し訳ないという気持ちは、ずっと残ってたの。
常田真太郎: で、さっき圭介さんがしたような言い訳をバーッとされて(笑)。それで僕は、なんとかして覚えてもらいたくて、「僕、いろいろやってるんで、何でもいいんでなんか使ってください」っていう話をして。そしたらちょうどフラカンがメジャー復帰した頃で、「メジャーに移ったからそういうこともしやすくなるかもね」って。
鈴木圭介: シンタがちょうどスタジオを作ったばかりで、「そこでも録れますんで」みたいな話だったね。
常田真太郎: っていう立ち話をして、3分ぐらい。で、僕はもううれしくてうれしくて。
──  何時間も待たせて3分で終わったんですか?
鈴木圭介: (笑)いや、だって知らないじゃん、その事情を。そんな待っててくれたなんて、今、初めて知ったんだから。
常田真太郎: でもその3分の印象で覚えていただいたみたいで。そこが大きかったですね。
──  っていうか、なんでスキマスイッチがフラワーカンパニーズにそんなに必死に覚えていただこうとしてるのか、まったく解せないんですけども(笑)。
常田真太郎: いえいえ、ナンパで声かけて、電話して、やっぱり直接会うしかないな、っていう。その三つ……三顧の礼ですよ、だから完全に(笑)。
鈴木圭介: 「すみません」って感じですよね、ほんとに。

4.常田、『AP BANK FES.』でもフラカンを張る

常田真太郎: で、それからまた1年半ぐらい空きましたね(笑)。
鈴木圭介: そのあとは……『AP BANK FES.』だ!
常田真太郎: そうそう。それも、僕から会いに行ったんです(笑)。真心(ブラザーズ)さんとフラカンさんが出てたんで、僕の出番は次の日だったんですけど、前の日の打ち上げから無理やり入って。桜井(和寿)さん、僕、一緒にサッカーしてて仲よくさせてもらってるんで、「打ち上げ行っていいですか?」って、さも今日出たかのように。で、「ダブル桜井! YO-KING! 鈴木圭介! 何、この4ショット!」って思って。
──  ダブル桜井? ……あ、ミスチルと真心(笑)。
常田真太郎: そうです。それでまた桜井さんが、「いやあ、今日はもうほんとにフラカンだよ! ひょっとしたら、今回のバンド・アクトの中でもフラカンがトップじゃないか?」とか言ってて。
鈴木圭介: またそうやってうまいこと言ってくれるんですよ。
常田真太郎: いやいや、だってそれを真心さんがいる前で言うんですよ。だからそれは本当だと思う。で、YO-KINGさんも「よかったよねえ」とか言ってて。それをきいて、僕もすごいうれしくて。それほんと、桜井さん、いまだに言ってますもん。
鈴木圭介: ……ライヴ終わって打ち上げでね、桜井さんに「完敗です」って言われたんですよ。「またあ」って思うよ、こっちは。呼んだ手前、気ぃ使ってくれてるんだろうな、って。そんなことまともにそんなこと信じるほど純粋じゃないですから、「またまたぁ」とか思ってたんだけど……そこまで言ってくれるってことは、その時、いいライヴできたのかもしれないですね。
常田真太郎: で、すごい打ち上げも盛り上がって。そこでまた別れ際に「なんかあったらぜひ声かけてください」って言ったんですけど、そしたらそのちょっとあとに、いきなり電話がかかってきて。
──  長かったですねえ。っていうか、「何様なんだきみは」と鈴木さんに言いたい気持ちでいっぱいなんですけど(笑)。
常田真太郎: 携帯見たら「フラカン鈴木圭介」って出てて、「マジか!!」って一気に汗かいて。で、電話をとったら、「ちょっとプロデュースを……」っていう相談でしたね。

5.作詞家兼作詞プロデューサー、常田真太郎の歩み

鈴木圭介: 『ハッピーエンド』(前作、2012年リリース)の"エンドロール"っていう曲で……あの曲が、なかなか形にならなくて。でもこの曲は形にしたい、どうしようと思ってて。その前のアルバム(『チェスト! チェスト! チェスト!』、2010年リリース)の時に、1曲亀田(誠治)さんにプロデュースしてもらって、それがすごくよかったのね。それで、"エンドロール"は歌詞も何十回も書き直してて、全然まとまらなくてさ。「プロデューサーに入ってもらうのはどう?」っていう話になって、また亀田さんにってことも考えたんだけど、そんな状態だったから、歌詞のディレクションもできる人にお願いしたいなと思って。そこで「……そういえば! これはいちばんいいかも!」と思って、すぐ電話したの。
常田真太郎: 確かその電話で、いきなり歌詞の話をしましたよね、1時間半ぐらい長電話を。「歌詞についてシンタくんは、何を思って、どうやって書いてるの?」っていう話から始まって──。
鈴木圭介: そうそう。まだ事務所も通してないし、やるかやんないかも全然決まってない段階なのに。で、すっごいいろいろ話してさ。
──  どういう話をしました?
常田真太郎: 僕はもともと歌詞を書くのが大好きなんですよね。高校の頃とか、バンドでオリジナルを作ってるわけでもないのに、歌詞だけ書き貯めてた時代もあったりして。
──  それけっこう意外ですね。アレンジャー、プロデューサー、あとエンジニアもやってた人が……昔、サンボマスターに「自主制作盤を作った時、常田くんがエンジニアやってくれた」ってきいたことがありますよ。
常田真太郎: ああ、やりましたね。元々は槇原(敬之)さんが大好きで、槇原さんみたいになりたいと思ってコルグのM1を買って、作詞・作曲・編曲を始めたんですけど、特に歌詞に魅力を感じて、どんどん好きになって。いろんな方の詞を見たり、分析したりしてたんですけど。で、専門学校に行って、アレンジとかエンジニアリングとかを学びつつ、でも詞だけは、自分の中で確たる自信があったんですよ。「俺はできてる!」って。
鈴木圭介: すげえなあ。
常田真太郎: で、のちにスキマスイッチでデビューする前に、事務所に「詞の先生に教われ」って、付けてもらって。そこで最初の挫折を味わって。尾上文さん、元々BOY MEETS GIRLっていうユニットをやってた方で。歌詞に関して本当にすごい方で、自分が「俺はできてる」って思ってたのが、微塵もなくなって。
鈴木圭介: へえー。テクニック的なこと?
常田真太郎: も、感覚的なことも、両方ですね。感覚を技術で紡いでいく、っていう組み立て方を、まず学んで。でも「いいところもあるよ」とも言っていただいたんで、それも生かしつつ、1年ぐらいですかね。月2回指導していただいて。僕は歌詞の書き方を知りたかったんで、そうやって教わるのもどんどん好きになっていって。で、歌詞を何度も何度も書き直すと、よくなっていくのが自分でもわかるんですよ。1曲書けば1個技術が身につく、と僕は思ってるんですね。その曲がボツったとしても、1つスキルは得ているので、次にまた書き直す時でも、1つスキルを得た状態で書き直せるわけだから、前よりよくなるんですよ。だから、書けば書くほどよくなるっていう。
鈴木圭介: これがねえ、目からウロコだったんですよ。逆だと思ってたの、俺。で、周りもみんな同じことを言うの、バンド系の知り合いとか。歌詞って最初に、パッションのままバーッて走り書きしたやつがいちばんよくて、書き直せば書き直すほどぐスケールが小さくなっていって、結局最初に戻るっていう。それで最初に戻るパターンが多かったの、俺も。シンタはそれとまったく逆の「直せば直すほどよくなる!」ってことを、絶対的な自信で言ってたの。それでびっくりして、「すげえ!」って。
常田真太郎: だから全ボツ食らうの大好きなんですよね。「また書いていいんですか? じゃあ今度違うテーマがあるんですよ」って、また持っていけるんで。で、その電話で、圭介さんが歌詞の書き直しを食らってると。それで1時間半ぐらいそういう話をして、「じゃあ歌詞を中心に見てくれない?」ってことになって、「よっしゃ!」と思って。歌詞も含めてのプロデュースって、ナオト・インティライミなどでもやってましたけど、先輩のバンドでは初めてだったんですよ。それに、フラカンのサウンドとして、こういうのも聴いてみたいっていうイメージもあったんで。だからすごくやってみたくて、「ぜひお願いします」って受けたのが最初ですね。

6.ついに"エンドロール"で初の共同作業。圭介、目からウロコ

鈴木圭介: で、そこからが……早いんですよ! 歌詞と曲の前半部分を録った音を持ってスタジオに行って、「今、こういう現状なんだけど、どう思う?」ってきいたら、歌詞を見てすぐ「今、思ったこと言っていいですか? こことこことこことここ、まず、時制が合ってませんよね」っていう話から始まって。「こことここは言葉を逆に入れ替えた方がいいですね」「ここはすごくいいと思います」とか、まずテクニカルなところからパッパッパッと話に入って。で、曲の話になって、「さあ、後半どうしましょう?」って──。
常田真太郎: 「このままだとサビがないですね。じゃあ一緒に作りましょうか」って、一緒にスタジオに入るんですけど。圭介さんの書く歌詞のスタイルって、いい意味で散文なスタイルなんですよね。ポエム的というか。
鈴木圭介: そう、物語的なのが書けなくて。
常田真太郎: でも言葉はすごくシャープだからかっこいいんだけど、歌詞とポエムと散文は違うんで、歌詞にしなきゃいけないなと。でも、これまでの作品はちゃんと歌詞になってるから、この曲はやりたいことが強かったから、見えなくなっちゃっただけなんだなと思って。でもそこで……どれくらいの温度で言ったらどのくらいの温度で返ってくるか、わかんないじゃないですか。
鈴木圭介: うん、初めてだからね。
常田真太郎: バーッて指摘した時に、「じゃあいいよ、シンタ書いてよ」ってなる可能性もあるんで。怖かったんですけど、「わかった、じゃあ1回直してくるね」って直したものが、僕の期待よりすごいよくなってて。「うわ、すごい」って思って、それで楽しくなってきて、何度もそれをくり返して──。
鈴木圭介: 録るギリギリまで直したよね。
常田真太郎: どういうふうな表現をすればこの曲に合うのか、この歌詞に合うのか、という。
──  それが目からウロコでした?
鈴木圭介: ほんと目からウロコだった。だって歌詞のことって、そんなに人と話さなかったしね。歌詞の領域は、あんまりみんな入ってこないでしょ、普段。まあ、ディレクターとか、ボツを食らうことはあったんだけど、ボツになってもよくわかんなかったんだよね、じゃあどうすればいいのかが。でもシンタは、すごく具体的に、理論的に指摘してくるし、理論的に改善方法を示してくれるから。あと、言い方がすごいうまいんですよ。まず、誉めるんですよ。
常田真太郎: (笑)いいからですよ、それは。
鈴木圭介: 「いい」って言われた段階で、まず肯定されてるでしょ? 先に肯定されていれば、結果的に全部書き直したとしても、すごく楽になる。なんの感想も言われず、いきなり細かいところから指摘されちゃうと、「ああ、全然ダメなのか……」ってなるじゃん。すごくわかりやすかったし、言われてることも。
常田真太郎: でも"エンドロール"で一緒にスタジオ入った時、めっちゃ怖かったですよ、俺。ガッチガチでしたよ。
鈴木圭介: えっ、そう? まあ、気を使ってくれてるなあとは思ったけど、あの時。
常田真太郎: 下手なことは言えないんで。フラワーカンパニーズっていう確たるものがあるから、変なふうに壊せないし。まず、ファンの方の顔も浮かびますし。「うわ、フラカン変わっちゃったわ。ポップスみたいなコード進行になっちゃって、鍵盤も入ってるしさあ」みたいな。
鈴木圭介: でも途中からシンタくん、ホワイトボード持ってきて、書き出してさ。今、NHKのEテレでやってる亀田さんの番組みたいに(笑)。
──  ああ、『亀田音楽専門学校』。
鈴木圭介: そう、だから『常田音楽専門学校』みたいで、「これカネ取れるよ。常田専門学校やったら入るよ、俺」ぐらいの。コード進行のパターンとか、ボードに書きながら「こういうパターンを踏むとJ-POPっぽくなるんですよ。で、こっちのパターンだと……」っていうのを、メンバー4人で楽器持って「はぁーっ!」ってきいてる感じで。
常田真太郎: でもその1日で、すごくメンバー4人のキャラクターがわかって。竹安さんはコードに対するアプローチが大好きで、「じゃあこうね」ってレスポンスがすごく早くて。で、最初はおぼろげなんだけど、どんどんよくなっていくマエカワさんと、ビートとしてしっかり刻みたいっていう小西さんのあのリズムの感じがあって。で、そこになんとなくのっかってるっていうか。まだフワフワしてる圭介さん(笑)。「じゃあもう1回歌ってみようか」とかいう感じで。ただ、おもしろいのが、「あ、今のよかったね!」っていう時、ちゃんと声出して歌うんですよ。それ以外は、途中で歌わない時もあったりするんですけど(笑)。
鈴木圭介: そうそう。コードがちょっと難しくてさ。
常田真太郎: でも「ここ!」ってとこではバシッと歌って。でもほんと、とにかく全員の音をちゃんと聴かないといけなくて。いつもみたいに一対一でできないので。それはほんとに怖くて、「ヤバいヤバい」ってずっと思ってて。もし間違ったことを言っちゃったら、しかもそれが取り入れられちゃったら、僕はそれに疑問を覚えたまま、レコーディングの日を迎えなきゃいけないから。怖かったですね、ほんと。

7.そして"short hopes"共作

──  で、今回のアルバムでは"short hopes"を一緒にやったわけですが。
鈴木圭介: うん。"エンドロール"の時は、曲を作ってる途中から入ってもらったから、そうじゃなくてまっさらの状態からふたりでがっぷり一緒にやりたいな、って言ってて。実際、1曲やってみたんだよね。常田スタジオまで行って──。
常田真太郎: "short hopes"の1年ぐらい前ですよね。
鈴木圭介: そう。で、「こういうのどうですか?」「ああ、いいねいいね」って進んでいくうちに、ほとんどやってもらっちゃったんだよね。で、歌詞もある程度までできたんだけど……自分の名前をクレジットしていいのか?っていうくらい、ほとんど作ってもらっちゃったから。「うーん、これはちょっと……」って思ったまんま、ほったらかしになっちゃったんだよね、その曲。
常田真太郎: まあ僕もやりすぎたっていうか、「スキマスイッチ的なノリの曲もおもしろいかな」って思ってやってみたんですけど……。
鈴木圭介: 俺もそれを望んでやってもらったんだけど、今のフラカンでこの曲をやって、よくなるかなあ……って迷って。で、ひとりじゃ勝てねえなと思って、俺対シンタじゃなくて、フラカン対シンタみたいな感じでやらせてくれ、っていう話にして、その曲は置いといて、今回の"short hopes"を持って行って。"エンドロール"の時みたいに、ある程度曲ができてるのを持って行ったの。曲の形はなんとなくできてる、バンドでやってみた、でも今いちこうヌケない、これなんとかうまいことならないかな、って……ただ"エンドロール"の時と違うのは、今回のは曲の形があったのを1回全部壊して、ゼロから作り始めたの。まず、ほんとインタヴューみたいな感じで、シンタが「圭介さん、中学の時はどういう感じだったんですか?」って俺に質問して、俺が答えることをPCで全部打って、それを元に歌詞を考えて。あの、歌詞の中に群像劇みたいに4人の人が出てくるっていうのは最初からあって、「それは残しましょう」ってことになったんだけど、俺が最初書いた歌詞は、ひとりひとりの棲み分けがちゃんとできてなくて。そのディテールをはっきりさせようってことで、「この人は何歳ぐらいですか? 普段何やってる人ですか? 結婚してますか? 離婚した人ですか?」って俺にきいて、答えたことをシンタがバーッてメモって。そこから言葉を削っていって、歌詞になったんだけど……一晩考えて、「もう1回、元のパターンを活かすようにできない? もうちょっと考えてもいい?」って、そこから何度も書き直して。
常田真太郎: 今回はほんと、やりとりしましたね。へこたれないというか、「もうちょっと書き直そう、もうちょっと書き直そう」って。何度もファックスが届いて。
鈴木圭介: ツアー中だったからさ。俺、パソコンできないから、今回ほんといろんなとこからファックスが届いたでしょ?(笑)。
常田真太郎: ホテルだったり、コンビニだったり──。
鈴木圭介: 徳島とか、松山とか──。
常田真太郎: 大分からも来ましたね。いや、でもそれがよかったですね。メールだと言葉に体温がないじゃないですか。直筆で書き殴ってるから、ものすごい体温があるんですよ。迷ってグシャグシャって消してある部分もわかるし、前と変わってない部分もわかるし、「ここの箇所は強く思ってるんだな」とか。だからファックスでよかったです。
鈴木圭介: で、スキマスイッチもレコーディング中ですごい忙しい時期だったから、その歌詞を読んでメールで返事が来るんだけど、それがいつも朝4時半とかなの。電話も夜中が多かったよね。「今晩1時ぐらいからなら空いてます」ってメールもらって、地方でライヴ終わったあとに電話したりして。
──  アレンジは?
鈴木圭介: 前と同じパターン。ホワイトボード。常田専門学校(笑)。
常田真太郎: ただ、今回はアップテンポの曲がやりたかったんですよね。"エンドロール"がああいう感じの曲なので。だから、ソウルっぽい感じで……あと僕の中では、小西さんのビートを出したいっていう。小西さんの叩く頭打ちのリズム、大好きなんですよ。それを活かしてソウルっぽいアレンジ、できないかなあと思ってたところに、この曲があがってきたので「これはいいな」って思って。で、どういうアレンジにしようかなって、「フィリー・ソウルみたいなの、どう?」っていう話になって。で、リハに入って、一回できたんですけど──。
鈴木圭介: いっぺん作り直したよね。「もうちょっと他のないかなあ」って、もう一回スタジオに入って。
常田真太郎: でも、前回より全然早かったですよ。
──  前回も今回も1曲ですけど、いずれはアルバム全部プロデュースっていうのは……。
常田真太郎: もちろんずっとそれ、言ってます(笑)。"エンドロール"の頃から言ってるんですけど……この席だから言いますけど、それを言うたびに圭介さん毎回、「いや、おカネが……」って言うんです。いらないって言ってるんですけど。1曲1,000円でいきましょう(笑)。
鈴木圭介: いやあ、だって事務所とかあるしさあ。
──  ポッと出のプロデューサーじゃないしねえ。
鈴木圭介: ねえ?
常田真太郎: いや、とんでもないです! ポッと出にしてください、むしろ。ただ、アルバム1枚やりたいんですけど、1枚やっちゃうと、僕はフラカンのファンでいられるのかどうか?っていうのも怖いんですよね。バンドに対してどこまで厳しくなるか、っていうのもあるじゃないですか? 僕はフラカンが作るフラカンの音が好き、っていうのもあるんで……ただ「フラカンと一緒にこれやりたいな」っていうアイディアもいろいろあるから。ファンの方がどう思うかわからないけど、僕はいつでもウェルカムです。
鈴木圭介: うれしいなあ、そう言ってくれると。
常田真太郎: 「相方に逃げられた時には入れてください」って言ってるじゃないですか、いつも。
鈴木圭介: (笑)よく言ってたね、それ。
──  大丈夫です、そうなったら全力で止めますから。常田さんのために(笑)。

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