2025.05.19
【column】5/11(日)「正しい哺乳類ツアー2025」追加公演@高崎CLUB jammer’s ライブレポート
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文・天野史彬
2025年5月11日、フラワーカンパニーズが今年1月から全国を回ったツアー「正しい哺乳類ツアー2025」の追加公演となる高崎CLUB Jammer’s公演が開催された。追加公演の場所がなぜ群馬県・高崎なのかと言えば、今年1月にリリースされたアルバム『正しい哺乳類』のレコーディングが高崎のスタジオTAGO STUDIO TAKASAKIで行われたからである。作品のリリースツアーと言えば東京や大阪の大きな会場でファイナルをやって締め括られるイメージも強いが、その作品が生まれた場所に帰っていく、というこのツアーの旅の在り方に美しさを感じる。
そして、これはぼんやりとしたイメージの連鎖でしかないが、群馬と言えば詩人の萩原朔太郎である。萩原朔太郎は詩人でありながら、自らマンドリンなどの楽器を演奏し、作曲もする音楽家だった。(高崎ではないが)前橋文学館という場所に行けば、彼が愛用したアコースティックギターが飾られていたり、彼の作曲した曲が流れていたりする。詩と音楽の関係、言葉と音楽の関係、「うた」と呼ばれるものの秘密……そういうものに思いを馳せるのに、群馬はうってつけの土地である。この日のライブ、本編の最後に演奏された“東京タワー”のポエトリー調の部分で、体をぐっと鈴木圭介がいる方に向けて、まるで鈴木の呼吸を深く感じ取るようにギターを弾く竹安堅一の姿を見ながら、やはり僕は「うたとは不思議なものだ。演奏という行為は不思議なものだ」と感じた。
高崎CLUB Jammer’sは中央銀座と呼ばれるアーケード街の先端にあるライブハウスで、外観も内装も、昔のアメリカ映画に出てくるバーのようなレトロな雰囲気の空間である。開場時間の前から、入り口前にはライブを待つ人だかりができていた。開演時間になり、まずステージ上にグレートマエカワ、ミスター小西、竹安堅一が登場。そして少し間を鈴木圭介が姿を現し、ライブがはじまる。1曲目は『正しい哺乳類』の曲順と同じく“ ラッコ!ラッコ!ラッコ!”。 エネルギッシュなバンドの演奏と、それまで会場にたぎっていたソワソワとした熱気がぶつかり、パーンッ!と弾けるような盛り上がりでライブは幕を開けた。続けて “アイデンティティ”。《ラッコ ラッコ ラッコ》とか《プカプカプーカ》といったシンプルな言葉を連呼していた“ ラッコ!ラッコ!ラッコ!”とは打って変わり、鈴木のボーカルはぼそぼそとした独り言のような落ち着いたトーンへ。しかし曲が進むにつれ、徐々に力強さを増していく演奏やコーラスに合わせて、観客たちの拳も突き上がっている。さらに“ラー・ブルース”、“アメジスト”へと続く。“アメジスト”の《炊き立てのご飯の湯気の下で/僕らはまた 笑いながら汚しあう/愛の意味も知らないまま》という美しいフレーズを、その言葉が抱く情景を大切に守りながら、聴き手に手渡すように鈴木が歌うのを聴いて、少し泣きそうになった。優しくて、悲しくて、そのタイトルのように、本当に綺麗な歌なのだ。
ここまで書いた流れでもわかる人にはわかるだろうが、この日のライブは1曲目から11曲目までは、アルバム『正しい哺乳類』収録曲がまさに収録された順番に披露された。こういう機会でしか味わうことのできない没入感を味わい、そして改めて、『正しい哺乳類』というアルバムの名作ぶりを強く感じた夜だった。近年のフラワーカンパニーズはアルバムを経るごとにそのサウンドも言葉も作品性もシンプルに削ぎ落されているように感じていたが、『正しい哺乳類』は、そんな削ぎ落されたシンプルさの奥からたくさんの新鮮な息吹が表れているアルバムだ。簡潔でありながら色鮮やかでもあるサウンドは「4ピースバンド」というスタイルの野性と芸術性の両方を突き詰めているように見事で、そしてこのアルバムには、「自分とは何か?」という問いを突き詰め続けてきた人間が、その「自分」という存在を、他者や社会とのかかわり合いの中から見つめている曲がたくさん収録されている。それは時に時代への提案や警笛となり、時に責任ある大人から若い世代へのメッセージや未来へ宛てた手紙のような形で表れている。
たとえば、“疑問符の歌”がそうだ。タイトルに掲げられているのは「疑問符」だが、曲の中ではたくさんの「答え」も歌われている。子どもたちに「何故?」と問われた時に、答えられない大人ではいたくはないのだ、という思いを、僕はこの歌から感じる。教科書に載っている答えではなくても、自らの人生で得た答えは伝えたいのだと。そして、さっき書いた“アメジスト”がそうであるように、綺麗なものについて、たくさん歌われているアルバムである。愛されたり、愛したり、許されたり、許したりしながら、生きてきた。その記憶が、人にまたひとつの夜を越えさせる力を与えるということを、このアルバムは教えてくれる。“少年卓球”のソリッドなスピード感、“モノローグでもの申す ”や“I & You & He & She”、“ミント”といった楽曲たちの1曲1曲の粒だった煌めき、“星のブルペン”の詩的で映像的な美しさ……この夜、曲順通りに演奏されていく楽曲たちを聴きながら、『正しい哺乳類』に込められた逞しさや温かさや光をたくさん感じることができた。
そして『正しい哺乳類』には収録されなかったがシングル曲“気持ちいい顔でお願いします”でライブの後半は始まった。“はぐれ者讃歌”では観客たちからも《歌え》の合唱が巻き起こり一体感を生み出した。“深夜高速”の終盤で《感じることだけが全て 感じたことが全て》と、まるで言葉で空気を垂直に切断するように歌う鈴木の声は、もはやマイクを「通して」ではなく、マイクを「通り越して」響いてくるようだった。命が、目の前にあるようだった。アンコールの“JUMP”に至るまで、清々しい盛り上がりに満ちたライブだった。MCでは、マエカワが来日したザ・クラッシュのポール・シムノンと共にベースを弾いたことを嬉しそうに語る幸福な場面もあったが、他には「(アイスの)ガリガリ君がガリガリ君なら、マエカワはゴリゴリ君だ」(鈴木談)みたいな、相変わらずどうしようもない話もたくさんしていた。そんな中で記憶に残っているのは、鈴木が笑いながら言っていたこんな言葉だ――「人生って茶番がつきものじゃない? 本当のことばかり言っていたら、息苦しいじゃない」。
ライブからの帰り、高崎駅から渋谷駅に向かうため、2時間ほど湘南新宿ラインに揺られた。こういう都道府県をまたぐような長い時間の移動がもたらす、他の誰とも違う時間軸を生きているような高揚感と孤独感をじんわりと味わいながら、「思えばフラワーカンパニーズは、年中こうした長い移動を続けながらツアーという旅をしているのだ」と思い至り、改めてその偉大さに感じ入った。
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*2/8(土)高松公演 → [振替公演日] 2025年8月10日(日) 香川@高松DIME 開場15:30 開演16:00
*2/9(日)松山公演 →[振替公演日] 2025年8月9日(土) 愛媛@松山 W studio RED 開場16:30 開演17:00
※両公演チケット発売中 https://lit.link/FlowerCompanyzInc
※2/8、2/9公演にお越しいただく予定でご購入いただきましたチケットは各振替公演で使用可能となりますので、
当日までお手元に保管していただき、当日お持ちくださいますようお願いいたします。